人里離れた山奥に住む、神の筆で描いたものをすべて具象化させてしまう能力を備えたそんな少年がいる。その少年の元に、蟲師・ギンコが訪れる。 少年の家で会った少女はいったい何者なのか?
瞼を閉じた時に見える、闇の中の光。 そして、ふたつめの瞼を閉じた時、上の方から本当の闇が降りてくる。ふたつめの瞼に棲む蟲が光を奪うと、そこには本当の闇と光の河が流れる。
村人達が次々と失聴する。雪深き静かな山村。 その静寂には、音を喰い尽くす蟲が関係していた・・・。
予知夢を見させる蟲にとりつかれた男。 人生さえも翻弄されて疲れ果てた男に、さらに数奇な運命が待っていた。
山中を移動する「生き沼」と共に生きることを望んだ少女。 ヒトではいられなくなると悟りつつ、少女は身を委ねた。
"潮に阻まれた孤島で、死と再生を繰り返す少女。 生神ととして崇められる少女がみていたものはー"
雨後の空にかかる、妖しくも美しい光の束。それを追い続けることを己の人生とした、数奇な男がいた。
海原で妖しきモノに妻を隠された男。断ち切れぬ想いから、男は浜で妻を待ち続ける。二年半の歳月を経てなお、再会を信じて―。
天災のたび豊作となる村では、収穫の後に村民がひとり命を落とす。 先祖の呪いと恐れられる現象には、かの地の祭主が封じた過去があった。
磨った者が次々と奇病に冒される不吉な硯。蟲の化石から作られたという硯の謎を解くべく職工を訪ねたギンコは、さらに数奇な背景を知る。
霊峰の山腹に開いた穴――。その奇妙な現象に足を山中へと踏み入れたギンコは、老いた蟲師と出会う。
沼のほとりに棲む隻眼の少女と偶然に出会った少年。いつしか女を慕うようになった少年は、沼の魚もまた隻眼であることに気づく。 この沼には何が―。
"その深き谷へ落ちた者は、ヒトとは呼べぬモノになり戻ってくるという。 “谷戻り”と呼ばれる伝承には、生物の体に宿る“蟲”が影響していた。"
“己の意思で歩みつつも、何故か同じ地へと戻ってしまう男。その不思議な現象 の陰には、男の妻―ヒトではないモノの姿が在った。”
凍てつく雪山に芽吹いた緑。眩惑と恵みをもたらす“蟲”の生命活動に引き寄せられしヒトは、杭い難き眠りの淵へと誘われていく―。
ギンコは旅の途中、徐々に物事を忘れ、眠らなくなったさよと、その息子カジに会う。さよは記憶を食べる”影魂”という蟲に寄生されていた。記憶を全て失くさないため、行方不明の夫を探す旅に出る母子だが、夫は別の村で新しい家族を作っていた。やがてさよの記憶はほとんどなくなってしまう。
"現世には数知れぬ洞が―“虚穴”が開いている。足を踏み入れし者は回帰を願いつつも記憶を失くし、心を喪くし、彷徨うばかり―。"
塊は故郷の山を出て有名な絵師になるが、ある日故郷に戻ると家は地滑りで埋まっていた。筆を捨て、死んだ姉の子供と暮らし始める塊の前に、昔塊が質屋に入れた羽織を持ったギンコが現れ、この羽織にはこの湯山の”産土”が宿っていると言う。
山越えの途中ギンコは、樹の頂上に座り込む、記憶を失った娘を拾う。娘はギンコの協力で村へと帰るが、怪異に出会った事で蟲の領域へと引きずられていた。戸惑う娘の恋人に対し、娘を人に戻すためギンコが示す方法とは……。
文字の海に溺れるように生きている娘の名は―淡幽。蟲に体を侵食されながら蟲を愛でつつ、蟲を封じる
奇病に冒された子を、母は案ずる。たとえそれが、ヒトとはかけ離れた姿で生まれたモノであっても――。
失われし命を甦らせる、奇妙な慣わしを持つ島。かの地では、逝く者も残される者も再会を信じ、暗き海淵に身を委ねる。
発する声がヒトすらをも錆びさせる――己に起因する奇怪な事象に、口を閉ざした少女。調査を始めた蟲師・ギンコは、そこに蟲の介在を見る。
山に火をつけろ。草の群れを焼き払え。災いの根を絶たねばならぬ。――野山を侵蝕した異形のモノを人々は憎み、畏れた。
稀(まれ)なる花の力により、光を得た盲目の少女。その眼は誰よりも遠くを見渡す。視えるはずのない彼方まで――。
地から地へと流れ続ける者達が在った。彼らに道を告げるのは‘光脈筋’――生命の素が流れる光の河。彼らは、ヒト知れぬモノを知っている。
日食の際には蟲が騒ぐという。ギンコは淡幽の助言を受け、日食を終わらせない蟲「日蝕み」の出現が危惧された里で警戒を続けていたが、読みは的中し闇に包まれてしまう。 しかし、生まれてからずっと太陽から隠れるようにして暮らしていた白髪の少女・ヒヨリだけは、その蟲のおかげでむしろ好都合の世界となったことを喜ぶのだった。
地中深く流れる光──生命の素たる"光酒"。それが世の生命達に与える影響を知らずに扱った男がいた。他意なき故の危うさが何かを引き起こす前に、蟲師が追う。
貝殻に耳をあて、聞こえてきたのは──鳥の声。幾年も前の悲劇が癒えぬままの漁村で、妖しき"蟲"が凶兆を示す。異形のモノが告げる異変、ヒトにとってそれは──。
その男の頭上には、常に雪が舞っている。 凍える事も無く平然とする男を支配するものは、 決して拭い去れない記憶──妹と共にした冬の想い出。
夜の山中、道具ひとつ使わずに狩りをする者があった。己の意のままに生命を摘み取り弄ぶ"それ"は──"ヒト"と"蟲"の境に在る、脆弱なる"モノ"。
覗き込んだ水面に映ったのは誰、或いは何──。 虚と実が溶け合う時、己で在り続ける術を悟り得るのは、この世に生を刻む己のみ。
枝先に溢れる無数の彩りは、ヒトを魅了する春の美景。それを欲して止まぬ者は、いつしか禁忌に歩み寄る。儚き花──咲き誇るは誰が為に。
その女は、雨を告げながら旅をする。蒼天から注ぐ雫が呼び起こす女の過去──それは幾粒の涙でも償えぬ数奇な巡り合わせ。
凪の海で帆を揺らす船。意のままに”蟲”を操り風を呼ぶ危うき少年は、己が為に往く──心に地平を見る為に。
雪の時節も青々と実りをたたえる里。眠りにつく事すら無く農事に精を出す男は、その脈動と共に何かを刻み続ける。家族が生きる地の為に、そして己の血が為に──。
春の訪れを拒む山があった。降り止まぬ雪、冬眠から目覚めぬ生命達。それは山のヌシ自らの意思──死を待つが如く。
洞から闇が溢れたならば、ヒトと蟲との境は溶ける。やがて生命達は”死”を奪われ、理さえも崩れ去り──在り方を違えた世が開く。かの道に潜むは禍々しき異形、或いはヒトがヒトである故に宿した禁忌。
それは何処であったか、何時であったか。 白き髪と緑の目を持つ少年は、世と生命の“理”を──そして己が居るべき処を照らす光を知った。
遠い記憶に残るのは、幾年も先に訪れるはずの春。 かの匂いを知る者は、未だそれを知らぬ己のみ。 この世が現でないならば、重ねた歳月は誰の為──。
昼でも夜でもない、不確かな刻──夕暮れ。 地に長く延びたふたつの人影が重なる時、永く眠っていた闇が目を醒ます。
この世にはヒト知れぬ水路が在る。時にヒトは意識を任せ、 望む相手への路を辿り──そして互いが、同時に想う。
寄る辺なき少年の心が見上げる空は、求めども触れられぬ温もり。 時にヒトは、五識を超えて感応する──生命達の眩き息吹に、己を包む輝きに。
輝きひとつ見えぬ夜空、しかし頭上にのみ散らばる幾多の星。 独り、少女は見上げていた──異質な闇と懐かしき光を。
水に誘われながら、そして自らも水を欲しながら──少年は脈動を刻む。 胎内での記憶に呼ばれたかのように、しかし彷徨うように。
叶わぬ願い、通じぬ想い──やがてヒトは道標を探す。 空を分かつ閃光でさえも照らせぬ、鈍く沈んだ闇の中に。
”死した者は山へ帰る”──誰しもが沼に葬られる里で、奇妙な病が蔓延する。 恐れを抱く人々は言う──”死が伝染った”のだと。
それは、ただ、其処に在った。悠久の刻を重ねるが侭に、見渡すが侭に。 やがてヒトは想いを重ね、その歩みを共にする──未だ知らぬ日々へと。
ヒトから生まれ、ヒトとは成れぬ事を定められたモノが在った。 摩滅しゆく心に灯るは無数の光──己を取り巻く総ての生命という輝き。 往くべき処を悟るモノ、還るべき温もりを示す者。 其々が其々の”生”を全うする刻、かの地に鳴り渡るのは──幽寂なる調べ。