北域出張。それは高等士官学校にて実施されている訓練の一環だ。北の最果て、大アラファトラ山脈の麓にある北域鎮台へと赴き、野盗の相手と山岳民族の監視を行う。半ば慣例であり、暇を持て余すことも多い務めだが……任地にてさっそくイクタは生欠伸を噛み殺していた。とりわけ宴席における司令長官サフィーダの無意味な口上には、辟易とするばかり。そんな弛緩した空気の中で、突如場にそぐわぬ大声が発せられる。声の主は北域鎮台一の猛者、デインクーン准尉だった。彼は今代のイグセムに興味を持ち、ヤトリに決闘を申し込んだのだ。その様子を「卑俗な催し」だと言い捨てたシャミーユ。だがイクタは、そんな彼女に思いもよらぬ言葉を掛ける……。
ヤトリとトァックを先頭に行軍する北域鎮台の補給部隊。彼らは最寄りの街にて物資を補充し、基地に持ち帰る任務の途上にいた。その部隊後方の荷車に隠れていた男——イクタは、同じく従軍中だったカンナを無理やり連れ出し、街の様子を探り始める。彼女との会話で、サフィーダのシナーク族への対応に話が及び、眉を顰めるイクタ。その脳裏に去来するのは、営倉の中で見た光景だった……。頭を切り替え、イクタはカンナと会話を楽しむことに。大アラファトラ風土記を読み解き「神の御使とされる精霊と、主神アルデラミンは、本来無関係なのでは」という推論に辿り着いた彼女に、喜びの声を上げるイクタ。だが、安穏とした時間は銃声により掻き消される……。
集落に入ったイクタ達が見たものは、暴徒化した友軍兵士だった。イクタはヤトリと共に突入し、なんとか場を治める。締めくくりとしては最悪だが、ともあれ戦争は終わったのだ。肩の荷を下ろす帝国軍一行。そんな状況を見計らったかのように、彼らのもとへ突如アルデラ教の世情査察官が訪れる。その理由は「精霊に対する虐待について」の通告。慌てるサフィーダの言葉に聞く耳を貸さず去っていく査察官を、イクタは追うはめになる。だが、すぐさま彼の渋面は戦慄に固まった。そこに広がっていたのは絶望的な光景——。イクタの脳裏に、トァック殺害現場にあった巡礼服が蘇る。彼はついに理解した。この戦争に裏で噛んでいたのはキオカ共和国……だけではない。
「一戦を交える頃合いだ」。そう決意の表情を浮かべるイクタ。だがマシューは、このまま火線防御陣作戦を続けるべきではと疑問を呈す。それに対し、敵が迂回してくる可能性を示唆するイクタ。実は、ガガルカサカン大森林は西で果てるところよりも更に先に細い山道があり、そのまま道を選んで進めば、迂回して帝国軍陣地後方に出ることが可能なのだ。とはいえ迂回は、遠回りした分だけ攻め入るのが遅れるので、アルデラ神軍にとって苦渋の選択となる。一方で帝国軍にとっては迂回されてしまえば撤退時間を稼ぎ切れず、時間切れになってしまうという状況だった。迂回に意識を割かれないために、どうしてもここで一戦を交える必要がある……。こうして、撤退のための直接交戦が始まった――。
炎の壁を突破した敵騎兵に対し、対策を練るイクタ。しかし、戦力差は5対1。この劣勢をどう切り抜けるべきか…。考えのまとまらないまま、イクタはマシューとハロに対し、陣地を守るように通達。三日後に再び会うことを約束し、自分はヤトリ、ナナクとともに敵軍の迎撃へと向かう。敵を撃ち破った上で東の林道へ急行し、炎の壁を作り直す。この難行を達成するための、最大の問題点が馬とエアライフルだった。この二点を抑え込まない限り、勝機はない……。イクタは斥候から帰ったヤトリからの地形についての報告を聞き、敵将の思考を読んでいく。そして、彼は不意に顔を挙げた。「これは…いけるといえば…いけるのか?」。イクタの策が動き出す――。