亡父・孫堅が手に入れた玉璽と引き換えに、袁術の指揮下から外れることに成功した孫策、孫権兄弟。その2人がかつての孫家の領土があった江南〈揚子江河口の南部〉に戻る頃、曹操は、長男・曹昴、甥の曹安民らを伴い、荊州の宛城に軍を進めていた。
曹操軍の進攻に、宛城を守る張繍はあっさり降伏した。だが、それは、天下を取るための布石。張繍の軍師・賈クは、絶世の美女と評判の高い鄒氏を利用し、曹操を亡き者にしようと考えていた。全てを見通す卓越した能力を持つ曹操は、自分の心の隙を満たすため必ず鄒氏に溺れる―賈クは、そうにらんだのだ。
宛城に入った曹操は、予想通り鄒氏の虜になった。鄒氏の屋敷に泊まり続ける曹操を見た張繍は、鄒氏が自分の愛人だったことから、嫉妬に身を焦がす。そして、数日後、賈クは、ついに配下の忍び・胡車児に曹操の謀殺を命令した。曹操を討ち、袁紹に同盟を持ちかければ、天下の形勢は一気に張繍に傾く、と賈クは読んだ。
曹操が籠もる鄒氏の屋敷を守っていた曹安民は、典韋や兵が毒を盛られて苦悶するのを見て、すぐに張繍の仕業だと感づいた。曹安民は、すぐに胡車児配下の兵と戦うが、多勢に無勢で憤死。典韋も、毒にやられた体で胡車児の首をへし折ったものの、そこで無念の死を遂げてしまった。
張繍側の兵が屋敷の周りで鬨の声を上げる中、馬に乗ったまま駆けつけた曹昴は、曹安民らの死を確認した。慌てて寝所に乗り込んだ曹昴は、うつろな表情の曹操の隣にいた鄒氏を一刀両断。そのまま曹操を用意した馬に乗せた曹昴は、城からの脱出を図った。
異変に気付いた曹操軍の青州兵