陸上部に所属している由佳里は、先輩のまりやに負けず劣らずの努力家。今日も朝練に励む彼女に、瑞穂がタオルを差し出しながら声をかける。しかし、由佳里からの返事は元気のないものだった。その理由は、長距離を走った疲れからくるものではなく、別のところにあった。 食事中、いつもはよく食べる由佳里が、元気のない様子でいることを心配したまりやは、陸上部顧問に由佳里の調子を尋ねた。すると、由佳里は最近タイムが伸び悩んでいるという答えが返ってくる。それには、まりやも心当たりがあった。由佳里は、陸上では短距離走向きなのだが、実際は長距離走で大会出場をめざしているのだ。次の大会の出場選手を決める選考会も近いときに、このままの調子では出場が難しくなるおそれもある。それを聞いた瑞穂も、由佳里をいっそう心配するようになった。 そんなある日、由佳里が瑞穂の部屋を訪ねてきて、彼に語りはじめる。由佳里が聖應女学院に入学し、陸上部で長距離走をやるようになったのは、今は亡き義姉の影響らしい。優しく素敵だったと由佳里が語るその人物は、瑞穂に少し似ているのだという。そのため、彼女は瑞穂だけに自分の悩みを打ち明けたのだ。しかし、それを語ったあとも由佳里の気持ちは晴れることがなかった。義姉のために陸上を始めただけで、自分自身は走ることが好きではなかったのか。義姉を追い続けてきただけで、自分自身の意志は存在していなかったのか。もしそうなら、今までの自分のしてきたことは何だったのか……。さまざまな思いが頭をめぐり、さらに追い詰められていく由佳里は、これから先