未完で終わった「明暗」は、日常の中に底知れぬ「奥」が存在することをさまざまな形で突きつける小説だ。登場人物同士が腹を探りあい騙しあい、対決していく作品でもある 未完で終わった「明暗」は、日常の中に底知れぬ「奥」が存在することをさまざまな形で突きつける小説だ。登場人物同士が腹を探りあい騙(だま)しあい、対決していくこの作品は、やがて読者をもこの騙しあいに巻き込んでいく。人間の意志や努力ではいかんともしがたい、日常の「奥」に横たわる「暗い不思議な力」。それは、ままならぬ人生の中で、漱石が晩年に行き当たった深い諦念を象徴する言葉でもあった。漱石晩年の境地とは?