人気俳優・松下洸平。彼には人に言えないもう一つの顔があった。 それは、警視庁の潜入捜査官という顔。 マフィア組織の幹部と噂される大物俳優・佐藤浩市を捜査するために、ひそかに15年前から芸能界に潜入し、極秘裏に捜査を続けていた。 そう、極秘裏に。だからこそ、絶対に目立ってはいけない。間違っても有名になってはいけない。それなのに……あろうことか、彼は売れてしまった。
けがの功名とはまさにこの事。人気俳優になったことが奏功して、ついに佐藤浩市と接触することに成功した松下。ようやく捜査は新展開を迎えるかに思えたのだが、佐藤浩市の芝居の迫力に圧倒され、あげく感動すら覚えてしまう始末。 撮影現場で、あの手この手を試して佐藤との距離感を縮めようとアタックするも、なんともタイミングが悪くうまくいかない。 そんな中、佐藤浩市も出席するという会食への誘いを受け……。
千載一遇のチャンスを活かせなかった松下。さらに状況は悪化する。 共演している馬場ふみかから「もう一つの顔を知っている」と、意味深な言葉を伝えられたのだ。正体がバレることは潜入捜査官としての死を意味する。 潜入から15年、ようやく成果が見え始めた中での大ピンチに、映画の撮影にすら身が入らなくなってしまう松下だったが、バラエティで共演した田中みな実からの、思いがけない一言に光明が見える。
急転直下の絶体絶命。あろうことか、捜査対象である佐藤浩市に正体がバレていた松下。もはや映画の撮影を続けることもできず、主演を降板することを決める。 なぜ松下が降板したいのか、その理由が自分にあるのではないか、馬場ふみかは、事態の解決に向け独自に動き始める。 一方、佐藤は撮影を通じて俳優・松下に情を感じ始めていたのだが、組織は松下の始末に動き始めていて……。
無関係な馬場ふみかを、危険な事態に巻き込んでしまったことに責任を感じた松下は覚悟を決め、佐藤浩市の待つ場所へと向かう。 日差しが強くなり始めた初夏、金属と油の匂いがする横浜市内の工場。 互いに別の顔を持つ2人の直接対決は、多くのスタッフと、映画撮影用のカメラが回る撮影現場で幕を開けた。