世は戦国。武勇と知略で雌雄を決する時代において、山本勘助はいまだに大望を成せず、兵法家を称しながら一介の素浪人に甘んじていた。だが、浪人仲間の青木大膳が持ち出した、甲斐・武田家への仕官の話に興味を覚えた勘助は、策を講じて何とか武田の重臣・板垣信方の目にとまることとなる。折りしも、武田家当主・武田信虎が長男・晴信によって駿河に追放された直後。若き晴信は、勘助を厚遇で召抱えた。だが、甘利備前守をはじめとする家臣一同は、なかなか勘助を認めようとはしなかった。
信濃経営を目前としている今、勘助には3つの願い事があった。一つは越後の長尾景虎を成敗すること。一つは、由布姫が産んだ晴信の子・四郎勝頼の初陣を見ること。そしてもう一つは、晴信の好色な性格を正すことだった。だが、最後の願い事は、勘助にとっても難題であった。晴信は由布姫のほかにももう1人、於琴姫という美しい姫に熱を上げている。その姫の存在を勘助には隠し通そうとする晴信の姿に、勘助は呆れる他なかった。そこで、勘助は晴信が尊敬する足利氏の高僧・桃首座を招き、晴信に説法を試みる。ついに晴信は観念し出家を決意、以後、信玄と号することとなった。勘助もまた剃髪し、道鬼と号した。