広島市街を望む丘の頂に立つ放射線影響研究所。その一角に、膨大な数の血液試料が凍結保存されている。原爆で被爆した親とその子どもなどから提供を受けた、約1000家族分の血液細胞が、そのひとつ。放影研は、この貴重な試料の一部を使って「全ゲノム解析」の計画を進めている。最新科学の力で解明しようとしているのは「原爆放射線の影響は遺伝しているのか?」という問題。原爆投下以来、世界の科学者が解を求めてきた“問い”だ。 原爆投下後、被爆地では、放射線によって生殖細胞が傷つき、被爆者の子供たちの健康にも悪影響が表れるのではないかという「遺伝的影響」の懸念が広まった。科学者たちの必死の追究が行われたが、それは今日に至るまで明らかになっていない。 「影響はない」と断定されてもされなくても、不安から逃れられない被爆者たち。そして、真実を追究するという使命と社会的影響との間で揺れる研究者たち。戦後73年、格闘を続ける関係者それぞれの思いに迫りながら、この“問い”に対する最新科学の到達点と、市民の上で炸裂した核兵器が遺した爪痕を見つめていく。