世のしがらみでガンジガラメになり、にっちもさっちもいかなくなり煮詰まっている30代半ばの信用金庫職員と、他人としがらみを持って生きていく事が面倒くさく、怖くてたまらない20代後半の売れない漫画家――。 この時代からこぼれ落ちた2人が、"賄い付き下宿"というまさに流行から取り残された場所で出会い、暮らし始める。 この2人に少なからず影響を与えるのが、下宿屋の2人の同居人――人生を超越したかのような年齢不詳の女性大学教授と、人生はこれからとばかり張り切る大家の女の子。そして、自分の人生を変えようと会社の金3億円を横領して目下逃走中の女。 彼女たちは、下宿屋での生活の中で今までの人生を見直し、ちょっとだけ成長して、それぞれ新たな一歩を踏み出していく。そんなそれぞれの人生模様をユーモラスに描いたホームコメディー。
週刊誌の記者に万里子(小泉今日子)の顔写真を譲って欲しいといわれた基子(小林聡美)は、その値段を聞いてア然となった。一枚なんと5万円。家に帰ってアルバムを調べると、写真は全部で13枚もある。すぐに65万と計算した基子は、思わずほくそえんだ。ところが、家で珍しく豪勢なしゃぶしゃぶを食べていた基子は、梅子(白石加代子)がアルバムから万里子の写真を持ち出し、テレビ局に1万円で売っていたと知った。その代金が今食べている肉に変わったと告げられた基子は、怒り心頭。勢いで家出をした基子は、『ハピネス三茶』に転がり込んだ。 夏子、絆(ともさかりえ)、ゆか(市川実日子)に事情を説明し、梅子を非難して空き部屋に入った基子。だが、絆と話すうち、基子は、自分がそれまで軽蔑していた梅子と同じことを考えていたと告白。そして、4万円も損をしたと思った自分のいやらしさをさらけ出し、悔恨の涙を流す。そんな基子を、絆は一生懸命に慰めた。 翌日、『ハピネス三茶』に、夏子(浅丘ルリ子)の教え子で、ゆかの父親の友達でもある雑誌編集長の間々田伝(高橋克実)が、若い野口響一(金子貴俊)を連れて遊びにきた。
基子(小林聡美)が、引っ越しを知った上司の部長(中丸新将)に、お祝いをしてあげるといわれた。欲しい物が全く思いつかなかった基子は、このことを下宿で絆(ともさかりえ)や夏子(浅丘ルリ子)に話すが、自分だけはっきりした答えを出すことができなかった。 そんなある日、基子は大きな容器に半分ほど入っている100円玉を嬉しげにながめている姿をゆか(市川実日子)に見られた。この貯金は基子が中学生の時から目的もなくチマチマ貯め込んできたもので、同じ時期に一緒に始めた友達は貯まった金で絵の道具を買うといって早々脱落。だが、基子は、貯金箱を徐々に大きいものに換え、ついに貯金箱は10リットルのポリ容器になってしまったのだ。溜め込んだ100円玉を決して使わないと知ったゆかに、「エンドレス」といわれるが、基子は余り気にしなかった。 ところが、人気イラストレーターになった例の友達が、雑誌の中で、貯金箱を割ることができない基子を、“永遠に踏み出せない人”と書いていることが判明。この記事にショックを受けた基子は、悔しさ一杯で今日中に100円玉を全て使い切ると宣言し、カートにポリ容器を載せて下宿を出るが…。
出勤直前、基子(小林聡美)は、クリーニング屋で受け取ったはずの会社の制服がないことに気付いた。前夜、酔っ払って帰った際、勢いでどこかに捨ててきてしまったことを思い出した基子は、すぐさま下宿のゴミ箱を確かめる。だが、清掃車はすでにゴミを運び去った後。出勤するタイミングを逸した基子は、入社して以来初めてズル休みを決意し、風邪をひいたフリをして会社に連絡した。 絆(ともさかりえ)は、編集者と対立し押し切られたことから、漫画家廃業をゆか(市川実日子)らに宣言し、下宿を飛び出した。絆は、ファミレスでバイトを始めるが、慣れぬ仕事に右往左往。ところが、そこに偶然響一(金子貴俊)が現れて、絆に再び猛アタック。いくらたしなめてもダメだと察した絆は、店内で両方の鼻の穴に指を突っ込んで響一を牽制する。しかし、これが店長に見つかり絆はあっさりクビになってしまった。 一方、夏子(浅丘ルリ子)は、京都の大学から招聘の話が舞い込んだことから、思い悩んでいた。夏子は、やってきた間々田(高橋克実)にこの招聘話を明かすが、結論はなかなか出そうになかった。まもなく、下宿でのんびりと一日を過ごそうとしていた基子の元に、生沢冴子という女刑事が訪ねてきて…。
絆(ともさかりえ)の父親が実は大邸宅に住む金持ちだったと分かり、ゆか(市川実日子)らは大騒ぎ。たまたま“私の友人について”というタイトルで会社の社内報に原稿を書くことになった基子(小林聡美)が、その相手を夏子(浅丘ルリ子)にするか絆にするかで大弱り。2人にジャンケンをしてもらった結果、原稿の中の“友人”は、大学教授の夏子ではなく、エロ漫画家の絆ということで決着した。そして、絆のことを社内報の原稿に書こうとしていた基子は、家賃滞納中の貧乏エロ漫画家ということには全く触れず、絆のプロフィールをキレイ事ばかり並べて書いてしまった。これをたまたま読んだ絆は、私の本当の姿を書いていない、と基子に猛反発。2人の間に冷たい空気が流れることになってしまった。 そんな折、基子が仕事中の信用金庫のフロアで老齢の女性客にサービスしようとした際、お客が持っていた陶器製の人形を落とし、壊してしまう騒ぎが起きた。どこを探しても同じ物は2つとないから謝ってそれで終わりにすればいいと、上司や絆に慰められる基子だったが、逆にそれが相手のお客に対して不誠実な態度のような気がした基子はだんだんと腹が立ってきて、意地でも探してやろうと躍起になり…。
お盆に入ったある日、絆(ともさかりえ)の元に、4年前に死んだ双子の姉・結の婚約者だった乾克由(柏原収史)がやってきた。乾の話から、結が乾や、仕事、実家を捨て、一人の貧しい男と駆け落ちを計画していたと知る。絆は、それまで何もかも自分より優秀だと思っていた結が、自分と同じように自由に生きることを願っていたのだと気付き、感慨深い。 そんな折、夏子(浅丘ルリ子)は、30年前に恋人と誓った約束を思い出していた。あの世へ旅立とうとしている恋人の「30年たったら迎えに行く」という言葉に、「はい」と答えてしまったこと――。夏子の身を心配するゆか(市川実日子)に、約束は約束だから仕方がないのと、夏子は一人、天国からの訪問者を迎える。 また、基子(小林聡美)の元に、馬場ちゃん(小泉今日子)から突然の電話が入る。「ハヤカワの声を聞いたら自分が一体誰なのか分かるような気がする」と語る馬場ちゃんに、基子は気の利いた言葉一つ言えなかった。そして馬場ちゃんの話はいつの間にか、以前会社をサボって一緒に行っていた喫茶店のことになる。喫茶店を懐かしがる馬場ちゃんの声を聞いた基子は、それが馬場ちゃんの「会いたい」というサインだと思い、母親の梅子(白石加代子)との約束を断わって、喫茶店の店内でずっと待ち続けるが――。
基子(小林聡美)が行き遅れるのを心配する母・梅子(白石加代子)は、カルチャーセンターで娘を早く嫁に行かせるための講座を受けていた。講師の花柳(篠井英介)が唱える「女は才能か、おっぱい」という説に共感した梅子は、基子にとんでもない「嫁入り前の準備」を提案。基子は、絆(ともさかりえ)やゆか(市川実日子)に相談しようとするが、絆は新作の企画で、ゆかは料理の新メニュー開発で、忙しく相手になってもらえない。 一方、絆は出版社から帰る途中、響一(金子貴俊)にプロポーズされてしまう。好きな人のためなら何でも一生懸命できるし、そのために生きたいという響一。もちろん、響一の人生を背負いたくない絆は、その申し出をアッサリ断わる。だが、響一から、死んだ姉・結を未だに気にして、こだわって生きていると逆にいわれた絆は、思わず考え込んでしまう。 ある日の夕食、留守電に入っていた馬場ちゃん(小泉今日子)のメッセージがきっかけで、シンギング・ドッグという犬のことが下宿で話題になった。夏子(浅丘ルリ子)の話によると、シンギング・ドッグは人間に飼い慣らされずに野生の道を選んだ犬で、時々孤独な犬たちが連絡を取るために声を張り上げて鳴くのだという。基子は、世間の常識やしがらみに縛られている今の自分と比べて、ずっと自由に生きているシンギング・ドッグを羨ましく思ってしまう。
地球に火星が大接近するというある日、基子(小林聡美)は、母・梅子(白石加代子)からの電話を受けた。健康診断の結果、どうやらガンの疑いがあるらしいというので、病院まで詳しい話を聞きに付き合って欲しいというのだ。突然のことで驚く基子だったが、不安を感じながらも梅子に付き添うことに。 一方、絆(ともさかりえ)は出版社へ出かけていた。新連載をスタートさせないかと話をもちかけられていたが、編集者とウマが合わず、大ゲンカをしてしまう。「私には書けない!」と飛び出した絆、なかなか上手くいかない生活に少々疲れ気味。響一(金子貴俊)が就職先を決めたことで、ますます落ち込んでしまう。 その頃、夏子(浅丘ルリ子)は病院にいた。夏子を恨んで自殺未遂した女子学生を見舞っていたのだ。命の大切さ、生きることの素晴しさを語る夏子に、女子学生は冷たいまなざしを送る。
絆(ともさかりえ)の愛猫・綱吉がいなくなって10日。ゆか(市川実日子)や間々田(高橋克実)の心配をよそに、絆はいつもと変わらぬ様子。ただ、それは他人の前だけで、実はとても落ち込んでいた。仕事も手につかず、綱吉のものを見つめては思いをはせていた。 一方、基子(小林聡美)の母・梅子(白石加代子)は無事ガンの摘出手術に成功。初めての入院でできた新しい友達と楽しい療養生活を送っていた。基子も、梅子を気づかいこまめに身の回りの世話をしていたが、病院からの帰り道、TVの街頭インタビューで「20年後の自分を想像して」と言われ、ふとこれからの自分の人生に疑問を感じてしまう。夏子(浅丘ルリ子)に、「20年後も、私は今と変わることなく老いた母の面倒をみ、信金で働いている姿しか想像できない」と語ると、「それは間違っている。自分で責任を取るような生き方をしなければ」と論され、基子は母・梅子の元から本当に自立しようと決意する。 綱吉を忘れられない絆の元に、突然響一(金子貴俊)がやってくる。絆のためにわざわざ会社を休んできたという響一は、「綱吉への想いに決着をつけなければ、絆は前に進んでいけない」と語った。響一の言葉を受けとめられない絆は、大好きなプールへと足を運ぶ――。 そして梅子の退院の日、基子は梅子に伝えた。「お母さん、私はずっとお母さんと同じ人生を生きることはできない」梅子は黙って基子の話を聞いていたが――。
ある日、夏子(浅丘ルリ子)が「大学を辞めた」と爆弾発言。驚きを隠せない基子(小林聡美)、絆(ともさかりえ)、ゆか(市川実日子)に「知り合いの学生に単位をあげるよう頼んできた理事長を殴った」と告げる。そして、「ハピネス三茶を出て旅に出るつもりだ」と続けたので、基子たちはますます驚き信じられない。ゆかが必死に夏子をひきとめるが、その決心は固く、一人、淡々と自分の部屋を片付ける夏子だった。 一方、逃亡を続ける馬場ちゃん(小泉今日子)が、基子を訪ねてこっそりとハピネス三茶にやってくる。刑事・生沢(片桐はいり)らの追手もすぐ近くまで迫っており、もう時間がない馬場ちゃんは、遠くへ逃げる前に基子に会いたいと、置き手紙を残していく。人目を忍んで会った二人。馬場ちゃんは、「私と一緒に行かない?」と、飛行機のチケットを渡すが…。 その頃、絆と響一(金子貴俊)は駅にいた。札幌に戻る響一を見送りに来ていたのだ。ずっと響一に対して素直な気持ちをぶつけられなかった絆は、響一に謝る。笑って許す響一に、「試しに抱きあってみない? 何も言わなくても抱きあえば、気持ち、伝わるかも」と、勇気をふりしぼって言う絆。しかし、響一を見送った帰り道、絆は通り魔の少年に出会い、止めようとして逆に少年に刺されてしまう…。