日本に帰国した六太は、ひとり焦っていた。 やるべきことはやり尽くし、もう運に頼るしかないにもかかわらず、とってもムダに運を消費してしまっていたからである。 幸運の犬・アポに祈りながら、六太はJAXAからの電話を待っていた。 そしてケンジもまた、家族と一緒に合格発表を待っていた。 『この一本の電話から、俺の毎日は変わるかもしれない』そう思いながら――。 宇宙飛行士を目指すまで、ケンジは仕事にいつも物足りなさを感じていた。 ケンジの仕事は光化学研究所の職員。 毎朝目覚ましが鳴る前に起き上がり、いつも同じバスに乗って会社に向かう。 仕事も好きでやっていることで、当然楽しくて誇りも持っていた。 職場は郊外で朝のラッシュとは無縁だし、定時にも帰宅できて恵まれた環境ともいえた。 けれど、ケンジは満足していなかった。 いつも同じメニューの食堂、グレーの地味な作業服、どこか向上しようとしない同僚たち。 それらに囲まれたままの自分は、子どもの頃に描いていた、カッコいい大人とは違っていた。 『このままここを一生の仕事場と決めてしまっていいのか?』 なんのひっかかりもなく、自分の仕事はこれだと堂々と言えるのだろうか。 ケンジはずっとモヤモヤを抱えていたのだ。 そんなある日、宇宙飛行士募集の広告を、妻のユキが見つけてくれた。 大学時代から一緒にいるユキは、ケンジがずっと宇宙へ行きたいと思っていたことを覚えていてくれたのだ。 記事を切り抜きながら受けるか迷っていると、ユキが言った。 「受けた方がいいね、受けないよりは」 その日からケンジの意識