その男は走った。自分の身代わりとして、磔となっている親友との約束を果たすために。しかし、友の元に戻れば自分が王に殺される…。男の心は揺れるが、走り続けて王宮へ戻れ、これはそういう物語だ、とけしかけてくる不思議な人物が現れる。幾多の困難を乗り越え、男は日没前に友が待つ王宮へとたどり着く。だが王は問う、その親友は本当に救うに値するのかと。王に促され、親友の顔を改めて確認しようとした男が見たものとは……。
その男は知らされる。自身が転生した文豪であり、過去の文豪を元に形作られた魂のような存在であること、それゆえに本の中に入り込み、侵蝕者と戦う潜書ができることを。今侵蝕されている本、「桜の森の満開の下」へと潜書した男は、脳裏にしだれ桜が焼き付いたまま、闇の中へと落ちていく。草原で目覚めた男は、若い女に遭遇し、都へと同行することに。だが都に着いた時、男には想像を絶する出会いと惨劇が待ち構えていた……。
その男は首を斬る。「桜の森の満開の下」で、孤独を恐れ、女房の望むままに人首を求めるその男の姿は、名もなき山賊そのものであった。彼を救うべく潜書した二人の文豪は、物語を正しく完遂させて侵蝕者を消滅するために、物語を強制的に動かすことを決意し、ある行動に出るのだった。一方そのころ図書館では、一人の文豪が、その男が本に囚われているのは、自分に責任の一端があると感じ、潜書を試みようとしていて……。
その男は心惹かれる。ある日、バスの中で遭遇した美しい少年に。少年が読んでいた本を探していると、どこからともなく本の作者や在り処をガイドする声が聞こえてくる。少年と親交を深めるために本を読み始めた彼は、声の主たちとのやり取りによって、徐々に文学に魅了されていく。本と文豪によって自らの人生に価値を与えられたと感じる二人だったが、ある日突然、思いもよらない事態が起きて……。
その男は立ち尽くす。河原の水面に映る自分の姿を見て、自分が何者で、何を望んでいるか問われていた。「月に吠える」に潜書した文豪たちは独特な世界で起こる奇妙な出来事に巻き込まれ、戸惑っている。その時、銃声が鳴り響き、道には血溜まりが広がっていた。血溜まりに沈んでいたのは……。
その男は忍び込む。そして館長室に祀られるアルケミストの石に手を伸ばす。しかし悪行は阻まれ倒されてしまう。そこに、その男を嘲笑う天敵が現れる。男は荒れ、メートルの紙に怒りのままに文字をかきまくるが、おさまらず更なる騒ぎを起こしてしまう。騒ぎを鎮めようとする者はある提案を持ちかける。その提案とは……。
その男は描く。都一の絵の腕前をもつが、外見と傲慢な態度から、都の人々に忌み嫌われていた。実際に目にしたものしか描くことができず、凄惨な描写のために弟子を傷めつけることもあるという。そんな男だが、娘にはたいそうな愛情を注いでいた。幸せそうに暮らしていた男だが、ある日突然、大殿に娘を奪われてしまう。娘を取り戻すためには、大殿から命ぜられた「地獄の様」を屏風に描かなければならない。空白の部分を埋めるための題材とは……。
その男は仲間たちに問いかける。「自分を想う者」の内面について。仲間は語る。嫌なやつではないが、たいそうダメなヤツで、人の気持ちがわからないところもあるが誰よりも優しかった、と。生きる才能は足りていなかったが、それでも諦めず、道化でありながらも、人間であろうとした、と。男は迷っていたが、「自分を想う者」の作品に触れてみる決心をつける……。
その男は笑う。楽しそうに笑っている家族写真の中に1人、不自然な笑いを浮かべている。男には幸福というものもわからず、人間の営みというものが理解できなかった。自分には人間である資格がないと絶望していたが、周囲に悟られないよう、道化を演じ続け、人間であることを装うしかなかった。道化である男は、皆を笑わせ、尊敬されていたが、それは見破られてしまう。道化を演じていると見破られた男は……。
その男は転生する。アルケミストの石に呼び出されたが、状況を把握できていない。男の記憶は定かでは無かった。親しかった者の姿や、体験、あらゆる出来事に靄がかっていて、まるで他人事のようだった。記憶を取り戻すために仲間たちと、潜書して戦うことを選ぶ。誰よりも本を守ることに懸命だった男だが……。
その男はさまよう。異形の侵蝕者により、空虚な狭間の空間に囚われてしまう。ここから出てもう一度彼に会えば、彼が何者かがわかるかもしれない。そして男は彼に再会し、彼の目的に気付いてしまう…。その時、図書館全体が揺れ、衝撃が辺りを包む…。