巣鴨北署巡査長・宮本清四郎は、現場一筋40年の人情派刑事。朝、巣鴨の商店街でひったくりをした初老の男を捕まえた清四郎は、署内で尋問をしていた。 その頃、刑事課では35歳の若さで本庁の捜査1課から異動となり、巣鴨北署署長に就任したエリート、佐々木警視正の訓示が始まっていた。佐々木は遅れてやってきた清四郎を叱責し、清四郎はそんな佐々木に反感を抱く。 ある日マンションの一室で井出政枝が死体となって発見される。室内を物色した様子はなく、政枝は頭部を殴打されて死亡していた。第一発見者は政枝の実父で、KR電機を一代で大企業に育て上げた伝説の経営者、久世竜蔵。近くで商談があったため井出家を訪れたところ、家の鍵が開いており、政枝がリビングで倒れていたという。 KR電機で営業部長を勤める政枝の夫・井出陽太郎は、前日の夕方、友人の小野川正彦、杉森勇と一緒に車で出かけてから連絡が取れなくなっていた。政枝と陽太郎は結婚して約1年の新婚で、周囲の話からも夫婦仲は良かったという。 死亡推定時刻は前日の午後8時30分から9時30分の間。事件当日の夜8時45分、竜蔵は酒を飲んでうたた寝をして、家政婦の村木明代に起こされていた。自宅から現場までは車で1時間はかかり、明代の証言からも竜蔵のアリバイは成立した。 現場からは政枝の携帯電話だけがなくなっており、通信記録から夜7時には夫の陽太郎にメールを送っていたことが判明する。しかし、清四郎はリビングに飾られたサクユリが気になっていた。室内に飾られた花はどれも造花で、本物の花はサクユリのみ。サクユリは伊豆諸島でしか見られない珍しい花で、しかも6月から7月にかけて開花し、この時期に咲いているはずのない花だった。なぜリビングにだけ本物の花が、しかも時期はずれのサクユリが飾られていたのか?事件の真相はサクユリだけが知っているかに見えた。 夜になってようやく陽太郎が帰宅するが、「前夜は河口湖にある友人の別荘に泊まっており、午後7時に別荘に到着してからずっとそこにいた」「夜7時過ぎに政枝からメールを受け取り、折り返し電話をしたが電源が切られていて繋がらず、その後、仕事の電話が入らないようにと携帯電話の電源を切ってしまっていた」と話す。しかも、政枝から受信したメールも消してしまったという。 その後、清四郎は久世家の家政婦の明代から、政枝と陽太郎にそれぞれ愛人がいたこと