岐阜県は瑞浪市釜戸町の西の外れ、百田という所での話だった。人里離れたこの場所に草堂を結び、一人で暮す老僧がいた。僧は自然を相手にした生活の中、くる日もくる日も木材に鑿を打ち弁天像を作っていた。 出来上がった弁天像を川のほとりの平原に安置したところ、いつの日からか白狐が像の傍らに寄り添うようにしてじっと像を見ているのに僧は気づいた。獣の身ながら仏心の篤い狐であると一人で暮らすその老僧は興味を持ち声をかけた。 狐は言葉を喋ることは無かったが白狐は老齢であって又弁天像を貰い受けたいと思っているのだと分かった。僧は経を解するようになれば狐に観音像をやろうと言い、経を習いにくるように言った。それから朝の読経を終えるころにはいつも狐は僧の庵を訪れるようになった。そして僧は狐の持ってきた木の葉に少しずつ経文を書いて渡してやった。 ところがある日、いつもの様に訪れると思っていた狐が読経を終えてもまだ姿を現わさない。僧はあたりの山じゅう狐を探し歩いた。すると岩穴の中で冷たく横たわる白い狐を見つけた。狐は僧の書いた木の葉の経文の上に身を横たえながら眠るようにして死んでいた。 一人で死んで行くのが寂しくて狐は弁天像を欲しがっていたのだと僧は気づき、像を遣り渋ったような自分を深く後悔した。僧は像を狐の傍らにそっと渡すと丁寧に狐を埋葬した。その晩僧の夢の中に狐が現れた。 礼を述べると自分を埋めた岩の近くの土を掘るようにと笑顔で狐は言った。次の朝、村人たちと共に僧は辺りの土を掘ると温泉が沸いてきた。そこで温泉は白狐の湯と呼ぶようになった。