昔、鹿児島県は志布志に、たいそう美人と評判の、千亀女という娘とその母親がいました。その美しさを一目見ようと、千亀女が通るたびに、多くの人々が集まるのでした。そんなわけでしたから、母親は千亀女を連れて町を歩くのが何よりの楽しみでした。 ところがある日、お寺に美しい観音様が迎えられます。すると観音様を見た人々は、「あの千亀女も観音様にはかなうまい。千亀女は二番じゃ」と、噂しだします。ショックを受けた母親は、試行錯誤しながら千亀女を一番にさせようとしましたが、結局一番美しいのは観音様だ、と言われてしまいます。泣き出してしまった千亀女を見て、母親はある行動に出ます。 真夜中のことです。千亀女と母親は、誰もいないお堂から観音様を引きずり出し地面に寝かせました。そしてなんと、観音様のお顔を燻し始めたのです。そうして観音様のお顔が煤(すす)で黒くなったのを確認すると、何事もなかったかのように、観音様をお堂に戻しました。「これでまた、千亀女が一番じゃ・・・」そういうと、千亀女を母親は満足そうに帰っていきました。 その翌朝。自分の顔を鏡でみた千亀女は驚きました。顔が煤だらけになっていたのです。そしてそれは、どんなに洗ってもこすっても、二度と落ちることはなかったのです。母親は後悔しましたが、もうどうしようもないことでした。ただ、こんなことになった娘を、前よりも一層大事にしたのでした。 また、不思議なことに、煤で汚れたあの観音様のお顔は、元通り綺麗になっていたということです。