昔、九州のお大名の家来で、勘助という飛脚がいました。ある時、大名から頼まれた珍しい刀を江戸の将軍様のところへ運ぶため、勘助は東海道を走っていました。 興津の宿を出て薩堆峠(サッタ峠)へ向かう途中、一匹の猿が化け物のような大ダコにさらわれようとしていました。勘助は脇差(小刀)を取り出して、波打ち際にいる大ダコめがけて切りつけましたが、全く刃が立ちません。そこで大名から預かった刀を取り出し、すでに海の中へ潜っていた大ダコめがけて飛びかかりました。 海の中に入った勘助はタコの足に噛みつき猿を救出し、持っていた大名の刀で切りかかりましたが、ポキンと折れてしまいました。猿を助けたものの、大切な刀が折れてしまって落胆している勘助に、仲間の猿たちが一本の刀を持ってきました。 それは珍しい名刀だったので「これなら将軍様に献上しても大丈夫だ」と喜んでいるところに、再びあの大ダコが迫ってきました。しぶしぶ勘助はもらった名刀を抜き、もう一度大ダコに立ち向かっていきました。この刀の切れ味は鋭く、あっという間に大ダコの頭を真っ二つにスライスしてしまいました。 勘助が猿からもらった刀は名人「五郎正宗」の作で、将軍様もたいそうお喜びになり、いつまでも家宝として大切にしたそうです。