「折れず、曲がらず、よく斬れる」と形容される日本独自の刀、「日本刀」には謎が多い。特に江戸時代より前の「古刀」の製法は口伝であったため、歴史の荒波の中で消失してしまったと思われる。日本刀のこれまでの研究方法は、他の多くの文化財と同様、破断して顕微鏡で断面を調べるといったものであったが、刀身の部位ごとに異なる細部の結晶組織構造まではわからなかった。そこに登場したのが中性子や、ミュオンといった量子ビームを刀に当てて内部を調べる方法だ。非破壊で、日本刀の鉄の結晶子や含まれる炭素濃度を細かく調べることが可能となり、たとえば日本刀の「古刀」の美しさの謎や、「五箇伝」という地域独自の製造方法の違いについて、新しい知見が得られると期待されている。また、時代の変遷による日本刀の系統の解明が進めば、失われた技法、ロストテクノロジーも復興できるかもしれない。加速器を使った量子ビームが光をあてる、日本刀研究の最先端を紹介する。