2021年3月16日、父・静徳(しずのり)さん(60)は自宅に戻ってきた。 既に首から下を自力で動かすことはできない。神経を圧迫する首の骨にできた癌は、肺にも転移。 緩和ケア病棟から自宅に帰る決断をしたのだ。 そんな父親には、どうしてもかなえたい願いがあった。自身が校長を務める小学校の卒業式に出席すること。今年で定年退職、自分にとっても教師人生「最後の卒業式」だった。 3月25日に行われる卒業式で、最後の教え子にどうしても伝えたいメッセージ。病状が悪化していく中、この願いをかなえることができるのか… そんな静徳さんには、心配事がもう一つあった。それは長男・将大(まさひろ)さん(33)のこと。教師の仕事に人生をかけた父は、家庭の事や子育ては妻に任せっ切り。幼い頃からいじめを受け、次第に心を病んでいった将大さんとの間には、深い溝ができていた。変形したストーブ、壁に空いた穴。家のあちこちに、将大さんの怒りが刻まれている。 寝たきりとなって帰宅した静徳さんは、将大さんとの会話を試みるも、普通の親子の会話はできない。しかし、卒業式に出席したいという父の願いをかなえるため、介護を続けているうちに、将大さんの中で何かが変わろうとしていた。 父の願いをかなえるため、懸命に看病を続ける中でひとつになっていく家族。一番近くにいるのに、バラバラになってしまった家族の再生の物語をカメラは見つめた…