「東京でお笑い芸人になる」と言って、娘が家を出たのは9年前… 27歳の「幸世(さちよ)」は、芸歴7年の売れないお笑い芸人。毎月のようにオーディションやコンテストに挑戦するものの落選続きで、芸人としての収入はほとんど無い。 女性として生まれた幸世だが、中学生の頃に「自分は男性だ」と違和感を覚え始める。それでも家族や友人には言えずに過ごしてきた。高校卒業後、幼い頃からの夢だったお笑い芸人になるために上京。月に1度のホルモン注射を打ち続け、少しずつ顔つきが男性らしくなり、声も低くなっていった。 「誰も男性として認めてくれないつらい経験を「笑い」にして伝えたい」と、幸世は自身の体験を元にネタ作りをしているが、その思いとは裏腹に、客席からは笑いは起きず、戸惑いの空気が流れるばかり…自分を追い越して売れていく後輩芸人たちの姿に焦りが募る。 生まれ育った静岡には両親と姉がいる。上京後にカミングアウトされた両親は、幸世のことを理解しようと努めるものの、今も複雑な気持ちを抱えている。元漁師の父親は、58歳になった今も、睡眠時間を削り、水産加工工場など3つの仕事を掛け持ち、母親は占い師をして、幸世のサポートを続けている。いつまでも親に援助を求める幸世に憤る父は、芸人になった娘のネタを一度も見ようとしない。 「芸人になるため」そして「男性になるため」に上京した娘とその両親。ある家族の葛藤を見つめた。