この家から父がいなくなって2年が過ぎた… 子どもたちは、それぞれの時間を過ごすようになり、当たり前となった父不在の生活の中で、母はある決意を固めていた。 2021年夏。私たちが出会ったのは、緑に囲まれた千葉・睦沢町で暮らす林さん一家。50歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断された父・佳秀さん(65)を、高校3年の大介さんを中心に、母・京子さん(53)と2人の妹たちで介護をしてきた。しかし、家族との会話もままならず、トイレに一人でいくこともできないほどに病は進行。「これ以上、子どもたちに負担をかけたくない」…京子さんは、佳秀さんを介護施設に入所させることを決めた。しかし、離れて暮らせば、父の記憶から家族の存在は消えてしまう…それは実質的な父との「別れ」を意味していた… コロナ禍の影響で、佳秀さんと一度も直接会うことができていない日々…ようやく面会が許されたのは、2022年夏のこと。覚悟はしていたが、佳秀さんの変わり様に驚きを隠せない京子さん。ひとつ屋根の下で暮らせないのは佳秀さんだけでない。重度の障害を持って生まれ、病院で暮らしている長男・安土さんの存在も京子さんにとっては気懸かりだ。 「また家族一緒に、みんなで暮らすことはできないか…」ずっと思い悩んできた京子さんは、大きな決断を下し、動き始める… 【語り】富田望生