日本三景、安芸の宮島。平清盛や豊臣秀吉ら、時の権力者たちの信仰を集めたこの島には、貴重な文化・芸術、宝物が集められてきた。海に浮かぶ朱塗りの巨大な寝殿作り、世界遺産・嚴島神社。平清盛が奉納した金銀水晶が散りばめられた国宝・平家納経。平安絵巻を今に再現する祭りの数々。 しかし島の魅力はそれだけではない。ここは太古の昔から神の島として崇められてきた特別な場所であった。中世まで人が住むことが許されず、今も島に暮らす人たちは、幾つものしきたりを守って暮らしている。正月でもないのにしめ縄を飾る風習、死者の埋葬を忌みとし、亡くなった人は島外に葬ること。神の使い・鹿を傷つけないこと。さらに木を切ることや耕すことも禁忌とされてきたため島の大半に手つかずの自然が残る。弥山原始林は嚴島神社と同様、世界遺産に登録され、700種類以上の植物が密集する生き物たちの楽園となっている。 この他にも紹介されることの少ないポイントはいくつもある。島の最高峰・弥山(みせん)の山頂は、巨石が積み重なる修験道の聖地となっている。ここには空海が灯したという伝説の「消えずの火」があり、修行僧が交代で守っている。また戦後の食糧難の時代、禁忌の島の例外として国が募集した、島の裏側の開拓農家たち。岩だらけの土地で今も耕作を続けている。暮らしの中に神が溶け込む島、宮島。その魅力をたどる物語。