今からおよそ三千年前、最古の漢字が生まれた。「殷」によって発明された「甲骨文字」である。それは、今とは全く異なる使い方をされた文字だった。「殷」は、雨乞から戦争の時期まであらゆることを文字を刻んだ甲羅や骨のヒビ割れで占った。その占いで神との対話のために用いられたのが漢字だったのである。ところが漢字は、あるときを境に劇的に使用法を変え、秘められた力を発揮するようになる。節目にあったのは古代最大の天下分け目の決戦。「殷」との戦いに勝利した新しい王朝「周」は、漢字を多部族との「契約」に使用するという発想の転換をした。言葉の違う部族でも見れば意味が分かる「表意文字」である漢字は瞬く間に広がって行った。やがて、大陸の広範囲に、言葉や文化の違う人々であっても同じ漢字を共有する文化圏が形成されていった。