神秘的なたたずまいをみせる琵琶湖・竹生島。狂ったように鳴き騒ぐ白鷺の群れが舞い降りる湖上には、白鷺に喰い荒されて死を待つ五人の処刑者があった。処刑されたのは、湖賊の長六右衛門の娘美鶴と配下の源と近江之介だった。かつては湖をわがもの顔に横行し、水の忍者として恐れられた湖賊だが、支配者が代った今、公儀の力の前に衰滅の一途をたどっていた。一方、将軍家指南役をつとめる柳生新蔭流は、上泉伊勢守から柳生石舟斎につがれ、さらに独眼の剣豪柳生十兵衛三巌に受けつがれていた。しかし新蔭流を受けついだのは、石舟斎だけではなかった。同門松田織部正も石舟斎を凌駕するほどの腕を持っていた。しかし織部正は豊臣家の禄をはんだが故に野におかれた。幕屋大休は、この織部正の流れをくんだ剣術者だった。大休は、新蔭流正統を証明する印可状と守り刀を竹生島神社から奪い、そのまま江戸に足をのばし、柳生新蔭流に正面から挑戦した。これを知った将軍家光は、大休を斬り、印可状を奪うように十兵衛に命じた。これを聞き、血気にはやる十兵衛の門弟達は、大休の道場に斬りこんだ、しかし、道場剣法しか知らぬ門弟達は、大休らの手で無惨にも斬って捨てられた。大休の作謀で戦いの場所は竹生島に移った。大休の参謀田丸宗十郎は、衰退の一途をたどる湖賊を言葉たくみに煽動して仲間に引き入れ、十兵衛らを迎え討った。湖の上で育った湖賊の神出鬼没の活躍で、十兵衛らは敗退し、門弟達は惨殺され、一人十兵衛だけが生きのこった。十兵衛は、湖賊になりすまして大休に迫った。湖賊の持つ銛を武器とした十兵衛は大休の前に立った。白刃がひらめき、銛がうなった。くずれ落ちた大休の屍を前にした十兵衛の胸の中を、亡び行くものの哀感が、そっと吹き抜けていった。
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