加賀七党の首領として、馬を駆り、冷酷な戦いぶりを見せる豪右衛門は、徹底した侍嫌いであった。それは代々土に生きた農民の本能でもあった。豪右衛門の二人の弟、弥藤太と隼人は、人質として戦国大名円城寺の城で暮らしていたが、許されて久しぶりに接する兄豪右衛門に、弥藤太は尊敬の眼ざしを、隼人は、兄のふるまいを粗野で、時流をわきまえぬやり方と批難の目をむけた。隼人は幼少から侍の中に暮し、朝倉家の人質梓姫に恋して、多分に侍びいきになっていたからでもあった。特に弥藤太の恋人あやめが、落武者の血をひくということだけで、異常に過酷にとりあつかわれるのに、青年らしい義憤を感じていた。一方朝倉家は、円城寺と通じながら、梓姫が円城寺から戻されたのを機に、加賀七党を籠絡して円城寺攻略を策していた。朝倉の使者を迎え、加賀七党は動揺を示した。朝倉の援助を受けて、円城寺を討つと騒ぐ郎党の中にあって、豪右衛門は、侍に対する不信感から分裂しても申し出を許そうとしなかった。そんな豪胆な豪右衛門に朝倉の間者無手右衛門は惚れこむのだった。しかし朝倉方は隼人と梓姫の関係を知ると、隼人を朝倉方に誘い込んだ。豪右衛門と隼人は肉親でありながら相争うはめとなった。だが隼人は、朝倉の矢をあびて命を断った。隼人の弔合戦に、女房以下刀槍をとって戦場にかけつけた豪右衛門は、途中、落ぶれたあやめに出会い、初めて人の情愛の深さに涙するのであった。かつて袂を分った加賀七党が我が身を恥じて、豪右樹門救援に出むいた。渾身の力をふりしぼって槍をとる豪右衛門の身体は、矢傷、刀傷で、すでに魂だけが雄々しく戦っていた。豪右衛門が指導した騎馬集団が、草原を駆っていった。
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